（�D）戦後から平成

これまでにもしばしば参考とし、引用もさせていただいた「茨城県漁業発達史」（茨城県水産試験場研究報告第３７〜３９号）は、江戸時代から始まって太平洋戦争期までで終わっています。茨城県漁業の戦後の展開について記録した書籍が見当たりませんでした。
  昭和後期から平成については、「（２）大洗町の漁業の現況」に統計的数値をもとに前述しておりますが、敗戦からそれまでの間の推移について、「大洗町史」に依拠しつつ、以下で補足したいと思います。

サンマ漁

戦争中に、漁夫の出征・漁船の徴用により、日本の漁業は大幅に縮減してしまいましたが、戦後の食糧難の中で漁業に対する要求は強く、これに呼応すべく茨城県全体では動力船が増加し、サンマ・カツオ・マグロの漁獲が上向いていました。
  ところが、イワシ漁の不振のために、磯浜の漁業は振るいませんでした。イワシは前述のように昭和１６年にピーク（統計的には信用されていませんが…）を記録しましたが、その後年々減少し続け、昭和２２年にはほとんど姿を消してしまいました。

昭和２４年においても、イワシは全漁獲高の２％にしかならず、サンマがこれに代わって盛んになりました。２，３０トン級の揚繰網船がサンマ・カツオ・マグロ漁を季節的に組み合わせて操業し、全漁獲高の８３％をとっていました。カツオは一本釣り、マグロは延縄漁でした。

漁協の設立

昭和２９年１１月３日に磯浜町と大貫町が合併して「大洗町」が誕生し、同３２年には磯浜小型船・磯浜伝馬船・磯浜大貫の各小型船漁協が合併して『大洗町漁協』が設立され、大型・中型船の『磯浜漁協』との２組合体制となりました。
  この時点における大洗町は沿岸漁業が主体であり、磯浜漁協は１７統の大中型船によるイワシ揚繰網漁、大洗漁協は３トン未満の小型船（３０１艘）によるタイ・ヒラメ・スズキなどの釣り・延縄漁、シラスの船曳網漁を行っていました。漁獲量は横ばいでしたが、タイやヒラメといった高級魚を含むため生産高は順調に伸びました。

漁船の状況

かなり年月はとびますが、昭和３８年の両漁協所属の漁船のトン数別・漁業種別の統計数値がありました。（「茨城漁業の展開」−元資料は茨城県水産施設課資料）
  磯浜漁協に所属する船７５隻中の５９隻が「まき網」漁業であり、３０〜４９トンの船が１７隻、５０〜９９トンの船が１１隻で、３０トン以上船が半分近くあります。この時点では「カツオ・マグロ」漁を行っている２００〜４９９トンの船が１隻、と、カツオ一本釣り漁船と思われる１００トン級の船が１隻あることが注目されます。   これに対して大洗漁協所属の船は２５７隻と数は多いのですが、大半は５トン未満の船で、機船底曳網漁・（おそらくタイやヒラメなどの）一本釣を行う船でした。

大洗町の漁船総数３３２隻（磯浜漁協７５、大洗漁協２５７）のうち、２７８隻は５トン未満の「３級船」機船底曳網漁船１５５、一本釣漁船６９、小型まき網漁船４４）であり、５トン以上の大中型まき網漁船５０隻、その他１０隻ですから、やはりこの時点でも１０年前と構造的には変わりがないということになります。

昭和３６年（１９６１）１１月に「大洗港」建設事業の起工式が行われ、磯浜築港断念からほぼ半世紀経っての漁港建設事業が、大洗町民の地域経済振興への期待を担って再スタートしました。
  それから１３年後の昭和４９年（１９７４）に大洗港の「漁港区」が、商港建設工事部分に先駆けて完了しました。

ところが、この頃既に漁業は衰退に向かって大きく転換し始めていたのです。
  すなわち、昭和３５年（１９６０）以降、日本の経済は高度成長期に入り、石油化学工業や電気機器製造業を中心にまざましい発展を遂げつつあったのです。そして、それとともに、地方から農山漁村出身の若者が流出して、「太平洋ベルト地帯」（工場立地が盛んな京阪神・中京・京葉地域を結ぶベルト状の地域をこのように言いました。）の諸都市に流入し、これらの諸都市の人口が急速に増加し始めたのです。