大正４年に発行された「三浜要覧」に、磯浜築港のことが次のように記載されています。（「茨城漁業の展開」）

『  鹿島灘１８里の間長汀殆んど一直線にして遠浅加うるに風浪高く漁船の出入頗る危険なるを以て、当時の県知事坂仲輔氏深くこれを憂い当築港を計画す。設計者は工学士藤崎健次郎氏たり。即ち明治４３年春工を起し、市街の中央部たる袖が浦に東西両防波堤を築造す。東防波堤は主として激浪を防ぎ、西防波堤はむしろ砂防の用に供す。東は久下磯の東方より西南に進み１６５間に終り、西防波堤は西方より一直線に東南に向かって１８０間に及ぶ。何れも石垣並にコンクリート方塊にして１個の大きさは拾四トン内外に及ぶという。東西両防波堤の間を港内と称し、満潮時２万５千坪に及び、その他船入場及荷揚場の設備をなし、尚４千余坪の埋立地をも設けんとする計画あり。起工以来年を閲すること６年県費３０万余円を費せし未だ竣工の運びに至らず、然れども現今着々工事を進めつつあるを以って愈々竣工の後には常磐海岸の良漁港たるべく期待される。防波堤の尖端に灯台あり、磯浜灯台と称し、高さ水面より４０尺、結構極めて美なり。光達距離１１浬半に及ぶ。』

磯浜漁港築港計画

『磯浜漁港築港計画』の概要は以下の通りでした。

上記は、第一期工事として施工する東防波堤の大略で、防砂の目的を以って築造する西防波堤工事は第二期計画とし、その延長は２００間とする計画でした。
  この計画が完成の暁には、次の成果を得ることになる予定でした。

堆砂という障碍

明治４３年１１月２７日に起工式を行い、着工され、工事は順調に進んで翌大正元年８月までに築堤５，６０間ができましたが、６月になって築港内の堆砂が発見されました。視察した会計検査院の検査官の指摘もあり、その対策として東防波堤の完成後に予定していた西防波堤の繰上げ着工をせざるを得なくなりました。
  大正２年はじめには東西両防波堤ともほぼ出来上がり、磯浜築港は完成と思われたのですが、そうした時に、思わざることが起こりました。港内に漂砂が浸入し沈殿し、港内が砂礫で埋まり始めたのです。

さらに決定的だったのは、大正４年に台風がこの地方を通過したことでした。荒れ狂う波浪が砂礫を伴って港内に押し寄せた結果、築港内は砂礫が積もって荒涼とした砂州に変じ、埋立地のような状態になってしまったのです。
  『波濤を越えて』（加藤清・元町長の回顧録）には、「この状態を打破するために、各種の対策がたてられ、まず西防波堤の先端６９間を除去し、東防波堤１６５間をさらに３０間延長した。しかし、これもさっぱり効果が無く、このうえは東から波を入れ、フラッシュによって埋没を除こうとして、その中央部を撤去してみたが、これも埋没を防ぐことができず、ついに工事を放棄せざるを得なかった。そして磯浜港は幻の港として、その後長い間砂の中に眠ることになってしまったのである。」とあります。